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Medical Tribune特別企画

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糖尿病領域と循環器領域からみた低HDL-コレステロール血症 PDF
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Medical Tribune 2006年2月9日号特別企画より転載

各疾患領域からみたHDL-コレステロールの重要性とアプローチ

  • 糖尿病領域と循環器領域からみた低HDL-コレステロール血症
  • 各疾患領域からみたHDL-コレステロールの重要性とアプローチ
司会
大阪大学大学院 医学系研究科 内科学講座 循環器内科学 助教授 山下 静也 氏 大阪大学大学院
医学系研究科
内科学講座
循環器内科学
助教授
山下 静也 氏
出席者(発言順)
東京大学大学院 医学系研究科 臨床分子疫学講座 助教授 後藤田 貴也 氏 東京大学大学院
医学系研究科
臨床分子疫学講座
助教授
後藤田 貴也 氏
神戸大学大学院 医学系研究科 循環呼吸器病態学 講師 平田 健一 氏 神戸大学大学院
医学系研究科
循環呼吸器病態学
講師
平田 健一 氏

HDL-コレステロール (HDL-C)は、多数の疫学研究や大規模臨床研究の結果から、冠動脈疾患(CHD)の発症リスクに逆相関していることは明らかであり、動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版やメタボリックシンドロームの診断基準(2005年)において基準値が定められている。しかし、低HDL-C血症の病態のとらえ方は疾患領域によって異なっている。そこで、糖尿病と循環器領域を専門とされる先生方にお集まりいただき、山下静也氏の司会のもと、各領域からみた低 HDL-C血症の重要性についてお話しを伺った。

メタボリックシンドローム、糖尿病、冠動脈疾患に共通する低HDL-C血症は重要な危険因子である

山下 低HDL-C血症がCHDや脳梗塞の危険因子であることは、数多くの疫学研究によって証明されています。有名な疫学研究であるFramingham Studyでは、HDL-Cが非常に低い群でCHDのリスクが高くなるという結果がはっきり出ています(図1)。低HDL-C血症は、LDL-コレステロール(LDL-C)とは独立してCHDのリスクを上げるのですが、LDL-Cが高い患者ではそのリスクがさらに高くなります。同様の結果は、PROCAM(Prospective Cardiovascular Munster)Studyやわが国における原発性高脂血症調査研究班の報告にもみられ、J-LIT(Japan Lipid Intervention Trial)でも、スタチン投与中の患者さんでは、HDL-Cが低いほどCHDのリスクは高くなることが示されています。こうした低HDL-C血症はどのようなことが原因として考えられるのか、病態を含めて後藤田先生からご説明いただけますか。

後藤田 HDL-Cが低いという病態のとらえ方には、高LDL-C血症の対極に位置づけられるものと、トリグリセリド(TG)の増加に伴うものとに分けられると思います。前者は、コレステロールの逆転送系を意識して循環器疾患の領域で重要視されるものです。後者は主に代謝性疾患の領域、すなわちメタボリックシンドロームや糖尿病などのインスリン作用が不足した場合に起こる病態です(図2)。メタボリックシンドロームの診断基準で取り上げられているように、TGの上昇とHDL-Cの低下が動脈硬化に関与するという考え方が、最近クローズアップされています。

山下 低HDL-C血症と高TG血症は鏡の表裏の関係にあると思いますが、なぜこれらがインスリン作用不足の病態で起こるのですか。

後藤田 インスリン作用の不足によってリポ蛋白の異化障害と合成亢進の両方が起こりますが、このうち異化障害が、TGとHDL-Cの表裏の関係をつくります。その原因は、異化を担うリポ蛋白リパーゼ(LPL)がインスリン依存性の酵素であることによります(図3)。低HDL-C血症と高TG血症を伴う病態では、いわゆるsmall dense LDLやレムナントの出現といったリポ蛋白の質的な変化も起こることが、動脈硬化発症に重要な役割を果たします。

山下 糖尿病とメタボリックシンドロームでは、リポ蛋白代謝の病態が若干違うような気がします。メタボリックシンドロームでは肝臓におけるVLDL合成が過剰で、それが原因でsmall dense LDLが出現しますが、それと低HDL-C血症が結びつかないのですが。

後藤田 メタボリックシンドロームが糖尿病と異なるのは、高インスリン血症の存在により、肝臓におけるリポ蛋白の合成亢進が大きく関与しうる点です。TGを多く含んだVLDLが作られますと、TGとコレステロールの転送(交換反応)を介し、 HDL-Cが減少しやすくなるものと思います。

山下 平田先生は、糖尿病やメタボリックシンドローム等の病態におけるHDL代謝と血管内皮リパーゼ(EL)の関係についてどのようにお考えですか。

平田 メタボリックシンドロームの患者さんでは高感度CRPが高いほどHDL-Cが低く、血中のEL蛋白量とHDL-Cが逆相関するという報告が2005年の米国心臓病学会でありました。また、我々がELとHDL-Cの関係についてELノックアウトマウスを用いて検討したところ、ELノックアウトマウスでは血清中のHDL-C濃度が増加していることから、ELはHDLの代謝に重要な役割を果たしていると考えられています。ELはいわゆる慢性炎症の病態で上昇します。メタボリックシンドロームや糖尿病のような慢性的な炎症が持続している状態では、ELが増えてHDL-Cの異化が亢進するという、TGとは独立した低HDL-C血症のメカニズムの解釈ができると考え、現在データを集積中です。

山下 英国の糖尿病患者を対象としたUKPDS23という研究では、2型糖尿病におけるCHDの危険因子として第2位に低HDL-C血症が入っていますが、糖尿病領域におけるHDL-Cへの関心はいかがですか。

後藤田 UKPDSと同じようなJDCS(Japan Diabetes Complications Study)という、わが国における2型糖尿病患者を対象とした多施設臨床介入研究でも、やはり危険因子の一番が脂質プロファイル、その後が血糖、血圧という順です。脂質のなかではLDL-Cがトップですが、2番目がTGであるところが英国と違うところです。HDL-Cを測ってはいるものの、それを介入に使っていないのは、効果的な治療方法があまりないからです。糖尿病の場合、血糖コントロールの改善によってTG値やHDL-C値がかなり改善するので、 HDL-Cを直接どうにかしようという動機づけが弱いのです。

低HDL-C血症は今後、循環器領域でも注目していくべき疾患

山下 代謝性疾患における低HDL-C血症は非常に重要ですが、循環器領域からみて実際にCHDを起こした患者さんにおける低HDL-C血症はいかがでしょうか。

平田 我々の病院のCHD患者さんにおいても、脂質代謝異常は多くの方でみられますが、そのなかでも低HDL-C血症単独の方がかなりの頻度で存在しています。したがってCHDの危険因子として低HDL-C血症が重要であるという印象は持っていますが、カテーテル治療を行っている循環器の臨床現場では、高LDL-C血症は動脈硬化の重要な促進因子であり、スタチンでCHDの発症を抑制できることは知られていますが、HDL-Cについてはあまり気にしていないのが現状です。

山下 実際、カテーテル処置を行う心臓病治療専門施設で測定するのは、TCぐらいですよね。我々代謝を専門にしている者から循環器ご専門の先生方に、TCだけでなくHDL-Cも測定するようにアナウンスすべきですね。後藤田先生がおっしゃるように、低HDL-C血症には、単独で低い場合と高TG血症を伴う場合がありますが、低HDL-C血症は単独でもハイリスクになると思います。ですからそういう患者さんに遭遇した場合、禁煙や肥満の是正などの生活習慣の改善で、できる限り早く治療を開始すべきだと思います。ところで、血管内超音波 (IVUS)によってプラーク容積が測定できるようになっていますが、動脈硬化と低HDL-C血症の関係についてはどのようなことがわかっていますか。

平田 IVUSによる画像診断が進んでいますので、HDL-Cとプラーク面積が逆相関するというデータはいくつか出ています。低HDL-C血症を薬剤介入で治療した時にどれだけCHDの発症を減らせるかについては証明されていません。

というのは、LDL-CやTGも同時に下げる薬剤介入試験がほとんどで、HDL-Cを単独で上昇させる薬剤がないのが現状だからです。また、重症の急性冠症候群(acute coronary syndrome)に合成HDLを静注して、プラークの安定化や退縮を試みる研究も始まっています。そういう意味では、単にHDL-Cの量的な改善だけではなく、HDLがプラークの安定化にも関与することを裏付けるデータが今後増えていくと思います。また、HDLは逆転送系としてプラークのサイズを退縮させるという役割以外に、抗炎症・抗酸化、血管内皮機能改善といういわゆるHDLの多面的な抗動脈硬化作用(図4)もイベント発症抑制の観点からみて、重要ではないかと考えております。

山下 代謝性疾患領域においても循環器領域においても、HDL-Cが低いことがリスクになっているとのお話しでした。ただ、 HDL-Cを上昇させることの意義は、現在のところ証明されていません。近年では、HDL-C上昇作用の優れたピタバスタチンのような高コレステロール血症治療薬も登場しており、このような薬剤によるエビデンスの確立が必要です。そこで、次回は治療と今後の展望についてお伺いしたいと思います。

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