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Medical Tribune特別企画

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Medical Tribune 2006年03月23日号特別企画より転載

対談●日本人の冠動脈疾患の現状とメタボリックシンドロームを視野に入れた治療

日本人の冠動脈疾患の現状とメタボリックシンドロームを視野に入れた治療

山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学 教授 松ア 益コ 氏 山口大学大学院
医学系研究科
器官病態内科学
教授 松ア 益コ 氏
順天堂大学 循環器内科学 教授 代田 浩之 氏 順天堂大学
循環器内科学
教授 代田 浩之 氏

平成16年度の国民健康・栄養調査によると、40〜70歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボリック シンドローム(MS)もしくはその予備群であるとされ、MSという病態が、日本国民に大きく広がっている実態が 浮き彫りとなった。MSは冠動脈疾患(CHD)のハイリスクとして位置づけられ、今後もこの病態に対する予防と 治療にますます注目が集まると予想される。一方、CHDの予防という観点から期待されるスタチンは、日本人に おいてもその有用性が証明されつつある。今回は、CHDのハイリスクであるMS症例におけるスタチンの役割 および使用意義について、小川久雄氏の司会のもと、伊藤裕氏と児玉龍彦氏にお話を伺った。

CHDの死亡率は減少しているものの,罹患率は上昇している

松ア 私が医者になった昭和47年頃は,循環器病棟の患者さんの半分は弁膜症でしたが,30数年経った現在では,CHDが約3分の1を占め,疾病構造の変化を感じています。

代田 私もCHDを診る機会が圧倒的に多くなったと感じています。ところが疫学調査では,CHDの死亡率は1970〜1980年代に少し上がりましたが,その後は減っているかプラトーです。

松ア この20年間に心筋梗塞(MI)の急性期治療法が大きく進歩し,CHDによる死亡率は減少したのですが,罹患率自体は1年間で人口10万人当たり150〜200人ほどと増加しています。CHDの発症が増えた理由の1つに,血清脂質値の上昇が考えられます。これは日本人の食文化などの生活環境の変化が影響しているのでしょうか。

代田 日本人のカロリー摂取量は,国民全体でみると大体2000キロカロリー前後で統計上は変わっていません。しかし,食事中の脂肪の割合は昭和初期で10%を切っていましたが,現在では30%程度まで上昇し,明らかに血清コレステロール値の推移と相関していると思います。

松ア ライフスタイルの欧米化によって高脂血症,糖尿病,高血圧といった生活習慣病が増加しており,ますますCHD発症に拍車をかける可能性がありますね。

メタボリックシンドロームと,糖尿病や高血圧は分けて考える

松ア 最近,CHD発症の原因としてよく耳にする「メタボリックシンドローム」を,一般臨床ではどう対処したらよいでしょうか。私は,メタボリックシンドロームでも糖尿病がある人は糖尿病として管理すればよいと思います。糖尿病だけでもCHD の危険率は高くなりますから。一方,メタボリックシンドロームは「軽症でありながらも多くのリスクが重なったもの」という概念と捉えています。

代田 そもそも,それまではイベント発症と相関しないと考えられていた軽いリスクしかもたないにもかかわらず,イベントを起こす方たちを詳しく調べてみると,インスリン抵抗性や内臓脂肪蓄積の状態であることがわかったのが始まりですから,メタボリックシンドロームとはっきりした糖尿病や高血圧は別に考える必要があると私も思います。治療後の患者さんの長期予後を,糖尿病とメタボリックシンドロームの有無で解析すると,どちらか一方のみの場合ではほぼ同程度でしたが,両方合併しているとさらに悪化したことからも,メタボリックシンドロームは独立した冠危険因子だと考えられます。我々の研究では,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の患者さんにおける心臓死の累積発症率を,メタボリックシンドロームの有無で比較したのですが,やはりメタボリックシンドロームのある患者さんの方が約3倍程度高くなっています(図1)。

松ア ところで,メタボリックシンドロームの考え方について,最近,意見が分かれているようです。脂質の専門家は内臓脂肪の蓄積が,糖尿病の専門家はインスリン抵抗性がより重要といっているように思えますが,我々,循環器専門医はどのように捉えたらよろしいのでしょうか?

代田 日本で診断基準が発表された背景には,肥満をベースとした心血管系疾患が急増しているというメッセージを発信することが予防医学につながる,という意図があるのだろうと理解しています。

松ア 肥満とインスリン抵抗性については,今後学会の行方を見守っていきたいと思います。

まずはLDL-Cを低下させ,それに加えてTGとHDL-Cにも気をつける

松ア メタボリックシンドロームの場合,複数の冠危険因子が重複しているため,どこから治療を始めるかという問題があります。UKPDS23という研究で2型糖尿病患者さんにおける心血管イベントの危険因子の重みづけを検討したところ,LDL -コレステロール(LDL-C),HDL-コレステロール(HDL-C),HbA1cの順でした。糖尿病であっても,糖尿病治療と同様に脂質代謝異常の改善も効果があることを示すもので,コレステロール代謝異常,糖尿病,高血圧すべてに関係する1 つの症候群が上流にあることを示唆する研究の1つだと思います。ところが,メタボリックシンドロームの診断基準にはトリグリセリド(TG)やHDL-Cは取り上げられていますが,LDL-Cは触れられていないのです。「やっぱりLDL-Cは悪くなかったのですか」と質問されてしまいます。

代田 2型糖尿病患者さんを対象としたCARDS試験ではLDL-Cの低下によって心血管イベントを32%抑制できていますから,LDL-Cは既に糖尿病やメタボリックシンドロームといったハイリスク患者さんで確立された重要な冠危険因子といえるのではないでしょうか。

したがって,糖尿病やメタボリックシンドローム患者さんではまずはLDL-Cをしっかりと低下させ,それに加えてTGとHDL-Cにも気をつける,というスタンスが大切だと思います。

松ア 「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版」においてもリスクの積み重ねが重要視され,冠危険因子を複数もつハイリスク患者さんほど脂質管理が厳しく設定されています。また,海外の大規模臨床試験で「the lower, the better」ということが証明され,日本でもその概念が浸透してきています。先生はESTABLISH Studyで,急性冠症候群(ACS)の患者さんのLDL-Cを積極的に下げて,プラークの有意な退縮を証明されましたね。実際に,日本人ではどこまでコレステロールを下げたらよいのでしょうか。

代田 どのくらい低下させるかは議論が必要ですが,どういう介入であれ,「高リスクはより積極的に,低リスクはマイルドに」という原則は変わりません。ただし,介入試験はあくまでも4〜5年のフォローアップで,実際に患者さんを診るのは20年以上になりますから,トライアルデータをどう解釈するかが重要です。

ピタバスタチンの優れたLDL-C低下作用に着目し,CHDの二次予防に期待する

松ア 現在,日本におけるACS患者に対する積極的脂質低下療法の意義を検討する目的で「JAPAN-ACS」というトライアルを代田先生と一緒に行っています。PCI施行後のACSの患者さんにピタバスタチン4mg/日あるいはアトルバスタチン20mg/日を約1年間投与して,プラークの退縮と主要心血管イベントを両薬剤間で比較検討するという研究です(図2,3)。CHDの発症において重要なLDL-CとともにHDL-Cについても注目したいと思っています。

代田 LDL-Cを積極的に治療することは極めて重要ですが,LDL-Cの値にかかわらず,それ以外にも何らかの介入が必要と考えています。HDL-Cを上げる意義は,古くはHelsinki Heart Studyなどでも証明され,また最近ではプラーク容積との相関も,小規模な臨床研究で観察されています。

松ア 理屈からいえば,LDL-Cを下げるよりもHDL-Cを上げた方が,プラークを安定化させる作用は強い気がします。ピタバスタチンは, LDL-C低下作用やHDL-C上昇作用に優れ(図4),また,糖代謝への影響を考慮した場合にも選択しやすい薬だと思います。

代田 私も,ピタバスタチンはHDL-Cを上昇させる印象をもっています。また,small dense LDLを改善するなどのプラスαの作用が報告されていますので,その効果が証明されるかどうか,非常に興味があります。

松ア JAPAN-ACSは全国約35施設で実施中の多施設共同試験です。この研究によって,プラークや冠動脈イベントに対するピタバスタチンの新たな効果を証明できればと思っています。先生,本日はありがとうございました。

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